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概要

 置かれる環境や、他者との関係性の中で生まれる「適応と反発」をテーマとし、窮屈さ、不自由さを互いに抱える生物群を描く。そして「支持体」と「絵」はまさに「適応と反発」の関係にあると考え、制作手法もリンクさせることで、絵画でしか表現し得ない世界を生み出すことを目標としている。

 適応と反発というテーマには、以下の3つのイメージを含む。

  • 存在自体もその生き方も全く異なるにも関わらず、必然として同じ環境に存在している。つまり「個別性」と「調和」が同時に成り立っている状態。

  • 自らの意思で適応しようとしているつもりが適応しすぎると環境の奴隷になってしまう、逆に反発しすぎると身を滅ぼすことにもなる、といった生きる上での不自由さ。思い通りにならない状態。

  • 反発することではじめて生まれる力強さ、同時に浮彫りなる「わく」や「さらに外の世界」の存在感。

 

 

表現手法

 

 上記のテーマを表現するために以下のような手法を用いる。

 

  • 個別性と調和 ―大きさ

 作品と鑑賞者の体との距離によって違う形が見えてくるような全体と部分の関係を探っている。全体を見るとある程度1つのまとまりに見えるが、部分に寄るとより混沌とした要素が見える。

さらにそれらの相補的な(一方に注目すると一方が見えなくなるけれども、両方があってはじめて成り立つ)関係をより強化するために作品サイズを大きくしている。

 

  • タブローという環境に絵を適応させていく ―過程、レイヤー

・既存作品のトリミングを「環境」とし、新たな描きこみが影響を受ける

・新規で描いた作品を途中で少し小さめにトリミングする

・何枚かのタブローを合体させ1作品とする

・途中から合体させるタブローを増やす、間に挟む

等のように制作の途中で絵の中身にとって予想外の環境を作り出し、描きこみによって適応させていく。

 

  • 反発 ―線、形

 タブロー上の限定的な空間の中で筆を動かす時、不自由な動きしかできないからこそ生まれる形があることに注目している。動きを直感的に反映しやすくするために“線”での表現を用いて、押し込まれた形を描いている。

 

 

テーマの動機

 虫や植物は、人間から見ると、遺伝子に組み込まれた生き延び方に従って、皆同じ生き方をしているように思える。一方人間も、自らの意思に従って個別に生きているようで、社会という枠組みの中で、一人だけではどうしようもない流れに流されて生きて死んでいくという点で同じような気がする。

 「属す」ことは窮屈だと感じていた大学時代にこのテーマで絵を描きはじめ、今会社に属してみて、また「会社員としての自分の在り方」と「理想の自分の在り方」とのギャップを感じながら日々過ごしている。

 しかし会社に属さなかったところで本当の自由というものは存在するのか疑わしい。生き物は存在する時点で何らかの環境に属し、逃れることのできない不自由さを抱えている。それを自覚し、なんとか自分を失わずに生きようとする時にこそ大きな力が生まれるのだとも思う。

 そしてタブローと絵の内容の関係は、上記の環境と生き物の関係と非常によく似ており、自分が絵画を描く上で現在最適なテーマであると考える。また、このテーマを扱い始めてからより「制限が多く閉じた表現手段である絵画制作」への理解、愛着が深まったと感じる。

2022.4 井澤茉梨絵

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